【第5話】時間を宿す——ウイスキー樽が紡ぐ、記憶の味わい

百年梅酒には、いくつかのバリエーションがありますが、その中でも特に異彩を放つ一本が「ウイスキー樽熟成」。

使われているのは、イチローズモルト。

ウイスキー好きの方はもちろんのこと、あまり詳しくない方でも一度は名前を聞いたことがあるのではないでしょうか。

この樽を借り受け、百年梅酒の原酒を12か月間熟成させた後、さらに選び抜かれたモルトウイスキーの原酒を加えるという独自の製法が取られています。

この仕上げによって、ウイスキー樽由来のバニラ香や重厚な甘味、複雑な余韻をまとった一本が誕生しました。

そもそも、梅酒をウイスキー樽で熟成させるという発想自体が非常に珍しく、一般的ではありません。 梅の繊細な香りや酸味は、樽由来の香味とぶつかりやすく、設計を誤ると個性を損ねてしまうからです。

だからこそ、梅とウイスキー樽が響き合う味わいを実現できたのは、原酒の選定、熟成期間、ブレンド比率まで細やかに設計された結果であり、明利酒類の調合技術と挑戦の証と言えるのではないでしょうか。

目次

樽は、ただの「入れ物」ではない

樽と聞くと、「保存のための容器」という印象を持つかもしれません。
けれど、酒づくりにおいて樽は、“ただの入れ物”ではありません。



樽材となるオークの木は呼吸をし、内部の酒に微細な酸素を送り込むことで、香りや味わいの変化を引き起こします。

さらに、この樽には、かつてウイスキーが長い時間をかけて眠っていました。

木材にはその香りや成分が染み込み、その記憶は完全には消えません。

そこに梅酒を注ぎ、再び時間を与える。

すると、ウイスキーの残り香、樽由来のバニラやスパイス香、そして梅の甘酸っぱさが何層にも重なり、全く新しい深みを持つ梅酒が生まれるんです。

味わいに“時間の重なり”があるということ

この「樽熟成 百年梅酒」は、どこか不思議な奥行きを感じさせます。

その理由は、単に“長く寝かせたから”ではなく、「何を経てきた樽なのか」という背景にもあるのではないかと思いました。

ウイスキーがいた時間。梅酒が今ある時間。両者が交錯しながら、それぞれの香りをまとっていく。

まるで異なる記憶が一本のお酒に同居しているような感覚。

それは、時間というものが“流れる”だけでなく、“積み重なっていく”ものなのだと、静かに教えてくれる気がしました。

実際に、あの一本を飲んでみて

——先日、明利酒類の工場見学に参加した際、
このウイスキー樽熟成タイプの百年梅酒を、実際にテイスティングさせていただきました。

その時の印象は、ひとことで言うと、「驚くほどなめらかで、深い」。

香ばしさや樽のニュアンスはしっかり感じられるのに、梅の酸味や甘さが角を取っていて、
どこか懐かしくも新しい味わい。

ウイスキー好きにも、梅酒好きにも、それぞれに刺さる魅力がある。
そんな“掛け算のような酒”だと感じました。


再び、樽は次の酒へ——時間のリレー

さらに興味深いのは、この樽が一度きりで終わらないということです。

百年梅酒の熟成に使われた後、同じ樽が今度は、明利酒類の新たなウイスキー熟成に使われているのです。

つまり、ウイスキー → 梅酒 → ウイスキーと、
ジャンルをまたいで味と時間が引き継がれていく構造がここにあります。

梅酒を育てた器が、また次の酒を育てる——
ひとつの蔵の中で起こる、静かな“時間の交差”に、私は深い感動を覚えました。

もし、「それ、どんな味なんだろう?」と感じたなら——
ぜひ一度、この「百年梅酒 樽熟成」を手に取ってみてください。

飲むタイミングに正解はありません。
贈り物としても、自分へのご褒美としても、特別な日の一杯としても。

数年後に開けるのも、今すぐ味わうのも、どちらも正解です。

“時間の重なり”を味わうという体験を、ぜひあなた自身のグラスの中で味わってみてください。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

Made By

 茨城県ひたちなか市で1910年(明治43年)の創業以来、110年以上の歴史を刻む老舗酒店です。
 「甲斐武田氏」ゆかりの地としての歴史・文化の継承にも力を入れ、地域の活性化に取り組んでいます。お酒のことも、ひたちなか市のことも、お気軽にご相談ください。

目次