麦焼酎って、どちらかというと軽やかで、飲みやすいお酒。
そんなイメージを持っていた私にとって、「蟻 麦」との出会いは、ちょっとした発見でした。
まろやかでコクがあるのに、飲み疲れしない。飲み終えたあとに、静かに余韻が残る──そんな麦焼酎だったんです。
今回は「蟻 麦」という一本を通して、麦焼酎の新しい魅力や、神川酒造ならではの焼酎づくりの姿勢をご紹介していきます。
「麦焼酎ってこういうものだと思ってた」そんな方にこそ、読んでいただきたい内容です。
麦の繊細さを、誠実に引き出す仕込み
「蟻 麦」は、「蟻 芋」と並ぶ、神川酒造のもうひとつの代表作です。
原料には、厳選された大麦と麦麹。
仕込みに使われるのは、大隅半島の高隈山系から湧き出る伏流水。
そして工程のすべてが、蔵人の目と手で管理されています。
麦は芋に比べて香味が繊細な分、わずかな差で仕上がりが大きく変わります。
だからこそ神川酒造では、発酵から蒸留までの各工程で、日々の気温や原料の状態にあわせて細やかな調整を重ねています。
ここでも特徴的なのは「少仕込み」。 一釜ごとに目が届く仕込みを重ねることで、「蟻 麦」ならではの澄んだ味わいが生まれています。
まろやかで、芯がある。静かな存在感
「蟻 麦」を口に含むと、やさしい麦の香りがふわりと広がります。
ほどよく熟れた果実のようなまろやかさとコクが続き、最後に残るのは凛とした余韻。
軽やかだけど、頼りないわけではない。派手ではないけれど、存在感がある。
そんなバランスの良さが、「蟻 麦」の魅力です。たとえば、脂ののった豚の角煮や、甘辛い焼き鳥、スパイスの効いた料理と合わせても、味がぶつからず、むしろ調和します。
焼酎が前に出すぎることなく、場や料理にそっと寄り添ってくれる。「蟻 麦」には、そんな“静かな力強さ”があります。
大きな夢を、足元からかたちにする
神川酒造の焼酎づくりに、派手な演出や大きな広告はありません。でも、一釜ごとの仕込み、一滴ごとの蒸留に真剣に向き合う姿勢があります。
「蟻 麦」という名前には、大きな声を上げずとも、着実に歩みを重ねていく蔵の想いが込められています。
少しずつ、一歩ずつでも、自分のやり方で積み上げていくこと。それがやがて夢に近づく道だと、この焼酎は教えてくれるようです。
焼酎づくりに向き合う姿勢そのものが、この一本に表れていると感じました。
焼酎がそっと寄り添う時間に
「蟻 麦」は、飲み方によって表情を変えてくれます。
- ロック:しっかりした骨格と香りをそのまま楽しむ
- 水割り:麦の甘みと爽やかさが引き立つ
- お湯割り:香ばしさとまろやかさがじんわりと広がる
どの飲み方でも、焼酎が出しゃばらず、日常に寄り添ってくれる。
考えごとをしたい夜や、少し気持ちを整えたいとき。 そんなとき、そっと手を伸ばせるような安心感があります。
「また飲みたいな」と思える焼酎
麦焼酎が好きでいろいろな銘柄を試してきましたが、
「蟻 麦」はその中でも記憶に残る一本でした。
飲んだ瞬間に感動があるというより、
飲み終わったあとに「また飲みたいな」と思う。
それが何よりの証拠だと思います。
派手ではないけれど、確かな重みがある。
そんな焼酎に出会えること自体が、
どこか背筋を正してくれるような気さえしてくるのです。
「蟻 麦」が語るのは、大きな夢の実現ではありません。
毎日の中で、足元を見つめて、少しずつ進んでいくこと。
それを積み重ねることこそが、本当の強さなのだと教えてくれるのだと思います。