マッカランの歩みをたどってきたこれまでの回では、創業者アレクサンダー・リードが持っていた価値観や姿勢に触れてきました。
「質を選び抜く」「信念を曲げない」
その想いは、彼ひとりのものにとどまらず、今のマッカランにも脈々と受け継がれています。
今回は、リードの哲学がどのように今のマッカランに息づいているのかを見ていきます。
ブランドを支える「6つの柱」に、その答えが込められています。
マッカランを支える「6つの柱」
マッカラン蒸留所では、現在「Six Pillars(6つの柱)」と呼ばれる理念が掲げられています。
これは単なる製造工程や設備紹介ではなく、哲学の継承そのものです。
たとえば──
- Exceptional Oak Casks(特別なオーク樽)
リードが「樽が味を決める」と考えた信念を今に伝えるもの。
マッカランでは現在も、スペイン・ヘレス地方でシェリー酒を熟成させた樽を使用し、オーク材の品質にこだわり抜いています。 - Curiously Small Stills(特徴的な小さな蒸留器)
リードの時代から続く小型スチルは、銅との接触面積が広く、不純物が取り除かれやすいため、マッカランらしいなめらかで芳醇な味わいを生み出します。
その他にも「Natural Colour(自然な色)」や「Sherry Seasoned(シェリー樽熟成)」など、マッカランがこだわる項目は、すべてリードが信じた“本物志向”の延長線上にあります。
職人の手で、少しずつ
現代のマッカランも、創業当時と変わらぬ“手間を惜しまない”姿勢を大切にしています。
生産の一部には近代的な技術も導入されていますが、肝心な部分は今も職人の判断に委ねられています。
たとえば──
- 原酒の熟成状態はすべて人の目と鼻でチェック
- 樽ごとの違いを見極め、必要に応じてブレンドや寝かせ直しを実施
- 樽の調達もスペインでの製造段階から関与
時間もコストもかかる工程ですが、それこそが「品質の礎になる」と考えられているのです。
素材を選び、育て、使い方を見守る。
こうした姿勢が、味の“芯”を支えているのです。
“少しずつ、確実に、良いものをつくる”。
それは今も変わらない、リードの哲学のひとつの形だと言えるでしょう。
時代が変わっても、変わらないもの
この200年の間に、ウイスキーづくりを取り巻く環境は大きく変わりました。
発酵や蒸留の仕組みは科学的に分析され、製造工程は最適化され、世界市場は高度に競争的になっています。
それでもマッカランは、変化の波にただ乗るのではなく、“守るべきもの”を明確に見極めてきました。
それが、リードの哲学に根ざした揺るぎない「仕事の流儀」と言えるかもしれません。
「本当に良いものを、妥協せずに育てる」
その姿勢は、現代の消費者にとっても重要なメッセージとなっています。
技術が進歩し、見た目やデータで判断されがちな今。
だからこそ、“誰がどう作ったか”という背景に、価値を見出す人が増えています。
マッカランが提示しているのは、「変わらない強さ」と「続ける覚悟」。
そこに、ブランドとしての芯が存在しているのです。
ウイスキーを「伝えるもの」へ
マッカランのウイスキーには、単なる美味しさ以上に**“伝わる何か”**があります。
そこには、哲学・時間・人の選び抜いた積み重ねがあるからこそ。
創業者リードの「納得できるものを選び、手間を惜しまない姿勢」は、今なお息づいています。
変化の激しい時代において、あえて変わらないものを守る選択。
それこそが、マッカランの特別さを際立たせているのだと感じます。
一つひとつを丁寧に
アレクサンダー・リードの思いや生き方を知っていくうちに、マッカランの“今も変わらない姿勢”が、自分自身にも問いかけてくるように感じました。
最近では「効率」や「再現性」「生産性」といった言葉が当たり前に飛び交っています。
もちろん大切な視点ではありますが、心に残るものは、必ずしもその枠の中だけで生まれるわけではありません。
マッカランの姿勢を知ることで、ふと立ち止まって考えたくなるのです。
「このやり方がいいと、自分は信じている」
その確信をもって、非効率とも思える選択を続ける姿勢には、どこか憧れのような気持ちもあります。
教員として働いていた頃、子どもたちの成長には“目に見えない積み重ね”が必要だと感じていました。
結果を急ぐのではなく、信じて待ち、丁寧に向き合う日々。
その姿勢は、まさにマッカランが大切にしている価値観と重なるように思います。
「量より質」
リードが貫いたその考え方が、今もぶれることなくブランドの真ん中にある。
そう知ったとき、マッカランというウイスキーに、さらに深い魅力を感じるようになりました。