Vol.4:日本の港に帰ってきた、旅のひととき──シャトー・メルシャン 長野メルロー 2022と向き合う時間

東京ディズニーシー「ワインで巡る世界の旅」。
このプログラムでは、世界各地の味わいや文化を体験することができます。

これまでに味わってきたのは──
1杯目:カリフォルニア・ナパのシャルドネ
2杯目:スペイン・ラ・マンチャのオレンジワイン
3杯目:南アフリカ・ウォーカーベイのピノ・ノワール

それぞれの土地の風土と造り手の個性が詰まったワインたちは、まさに「味覚で世界を旅する」というテーマにふさわしい内容でした。

そして今回の4杯目。グラスに注がれた赤ワインのラベルに、「Nagano Merlot(長野メルロー)」の文字を見つけた瞬間、びっくり!

──ここで、日本に帰ってきたか。

場所はアメリカンウォーターフロントに停泊するS.S.コロンビア号のダイニングルーム。とはいえ今回のテイスティングはその場で行われたわけではなく、あくまで“このワインが、今まさにその場で提供されている”という現実が重なったものでした。

港に船が戻ってくるような安心感と、どこか誇らしさを覚えながら、私はそっとグラスに手を伸ばしました。

目次

長野の冷涼な大地が育む、エレガントな赤

この赤ワインを手がけるのは、日本を代表するワイナリー「シャトー・メルシャン」。
その歴史は1877年、日本初の民間ワイン醸造会社「大日本山梨葡萄酒会社」の創設にさかのぼります。

フランス帰りの青年・土屋龍憲によって始まった日本の本格的ワイン造りは、戦後を経てメルシャンの名のもとに継承され、現在では国内外から高い評価を得るまでに至りました。

今回の「長野メルロー 2022」は、塩尻市・桔梗ヶ原、上田市の椀子ヴィンヤード、そして北信地域という長野を代表する3エリアのメルローをブレンドした赤ワイン。

  • 塩尻(桔梗ヶ原):果実味の凝縮感とボディの厚み
  • 上田(椀子):冷涼感と酸の美しさ、ミネラル感
  • 北信:繊細な香りと輪郭のある味わい

この3つの個性を絶妙なバランスで仕上げる“アサンブラージュ(ブレンド)技術”こそ、シャトー・メルシャンの真骨頂ともいえる手腕です。

香りはカシスやブラックベリー、プラムのような黒系果実に加え、トーストやシナモン、ほのかなユーカリのような清涼感あるハーブ香が重なり、複雑で立体的なアロマ構成が印象的です。

味わいは、果実のふくよかさとしっかりとした酸、緻密なタンニンが一体となり、しっとりとした輪郭のある赤ワインに仕上がっています。
派手さや濃厚さで押すのではなく、“整っている”ことで魅了する、まさに長野らしい冷涼産地のエレガンスを感じました。

日本ワインの歴史を感じながら──酒屋として、個人として

このワインを飲みながら感じたのは、ただただ純粋に──

「日本のワインって、こんなに深くて美味しいんだ」という驚きと喜びでした。

私自身、これまでいくつかの日本ワインを飲ませていただきました。

  • 「SOLARIS Chikumagawa Chardonnay 樽仕込 2020」
     長野・千曲川ワインバレー産のシャルドネ。
     樽熟成由来のバニラ香やナッツのようなニュアンス、ふくよかなボディ。日本でこれだけの完成度を持つ白があるのかと驚かされた1本
  • 「勝沼醸造 翔の紅の時間(マスカット・ベーリーA)」
     やさしく柔らかい赤。デザート寄りの味わいながら、どこか懐かしさと品の良さがあり、“日本人のための赤”を感じさせる
  • 「SUNTORY FROM FARM Koshu White of Japan 2021」
     甲州の白らしく、繊細な酸と透明感のある柑橘香。塩味を帯びたミネラル感が印象的。
     静かで強い、“日本らしさ”が香るワインでした。

こうした経験を積んでいるからこそ、今回の「長野メルロー2022」は、私の中で際立って感じられたのかもしれません。

香りの複雑さ、味わいの立体感──

どれも「すごい」と思わせる要素は多いのに、決して押しつけがましくなく、むしろ静かに語りかけてくるような奥ゆかしさがありました。

果実味の豊かさがありながら、輪郭はシャープで、酸とタンニンの設計が細やか。

ワインをひと口ずつ飲むたびに、その静けさの中に“凛とした自信”のようなものが感じられる。

「世界に出しても恥ずかしくない」という言葉では足りない、あるいは少し違う。

もっと素直に、「こんなにも美味しい日本の赤ワインがある」という驚きと喜び。

それを、あらためて体験できた気がしています。

酒屋として、こういうワインがあることをお客さまに伝えられること。

それを自分の言葉で届けられることに、小さな誇らしさすら感じました。

ワインがつなぐ「土地」と「物語」

このプログラムの魅力は、ただワインを“飲む”ことではなく、
その一杯一杯が語ってくれる「土地」や「人」のストーリーに耳を傾けられることにあります。
今回、日本ワインが“夢の国”で提供されたという事実は、どこか象徴的にすら感じました。

ディズニーシーはフィクションの世界。
でも、そこに並ぶワインは、確かにこの日本の土地で育まれた“リアル”な1本。
その対比が、このグラスに込められた意味をより強く、印象深くしていたように思います。

長野の冷涼な空気と、メルローというブドウの持つ繊細なバランス感覚。
そこに造り手の丁寧な手仕事と、長年積み重ねられてきた日本ワインの歴史が合わさって、
“たしかに今、日本のワインはここまできた”ということを、飲む人の心にまっすぐ伝えてくれる──
そんなグラスでした。

そしてこれは、私自身が酒屋という立場にいるからこそ、
あらためて心に響いた部分でもあります。
ワインという商品は、ただの嗜好品ではなく、土地を知り、人を知る入り口になる。
それをこのプログラムを通して、実感し続けています。

ワインという飲み物は、土地・人・文化の記録媒体のようなもの。
その1杯に込められた背景を、こうして言葉にすることで、酒屋として伝えられることがあると信じています。

そして「長野メルロー 2022」は、それにふさわしい力を持った赤ワインでした。

ただの美味しさではなく、記憶に残る意味を持つワインだったことは間違いありません

次回、最後の一杯はどんな物語を連れてくるのか──

その日を楽しみに、またこの旅を続けていきたいと思います。

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 茨城県ひたちなか市で1910年(明治43年)の創業以来、110年以上の歴史を刻む老舗酒店です。
 「甲斐武田氏」ゆかりの地としての歴史・文化の継承にも力を入れ、地域の活性化に取り組んでいます。お酒のことも、ひたちなか市のことも、お気軽にご相談ください。

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