Vol.5:ワインで巡る世界の旅、最終章──南仏の陽光と締めの一杯「カノン・デュ・マレシャル ロゼ 2023」

東京ディズニーシーで開催されたプログラム「ワインで巡る世界の旅」。
これまで私たちは、ナパのシャルドネ、スペインのオレンジワイン、南アフリカのピノ・ノワール、そして長野のメルローと、グラスを片手に“世界の味わい”を旅してきました。

いよいよ最後の一杯──
旅の締めくくりを飾るのは、フランス・ルーション地方から届いたロゼワイン。
その名も「ドメーヌ・カズ カノン・デュ・マレシャル ロゼ 2023」。

軽やかでフレッシュ、それでいてどこか奥行きのあるこの一杯は、まるで“地中海の陽光”そのもののようでした。

目次

南仏の風土が息づく、1杯のロゼ

このワインを手がけるのは、フランス・ラングドック・ルーション地方にある老舗ワイナリー「ドメーヌ・カズ」。
1895年の創設以来、ビオディナミ(自然と宇宙のリズムを重視した有機農法)を実践し続け、今ではフランス最大規模のビオディナミ・ワイン生産者として知られています。

このロゼの特徴は、シラーとムールヴェードルを50%ずつ使用したブレンドによる構成。
彩りは透明感あるサーモンピンク。
グラスに注ぐと、まず香ってくるのは洋ナシやグレープフルーツ、ストロベリーのような繊細でフレッシュな香り。
一口飲めば、心地よい酸と軽快な口当たりが広がり、シンプルでキレのよい辛口の味わいが余韻を引き締めてくれます。

特筆すべきは、この軽やかさの中に感じる“輪郭の明確さ”。
南仏の陽射しを浴びて育ったブドウたちが、カジュアルでありながら決して軽すぎない厚みを持っていて、きちんと「食事と向き合えるワイン」として成立している点に驚かされました。

プログラムを締めくくる“軽食とのペアリング”

この最終回では、ワインとともに軽食の提供もありました。
前菜のようなプレートには、サーモンのマリネやハーブ香る冷製料理、フルーツをあしらった爽やかな一品も添えられ、まさにこのロゼと相性抜群。

このロゼは食事を邪魔せず、寄り添うようにその美味しさを支える、そんな存在。
ペアリングの妙を、まさに体験として学べる構成だったと思います。

4本のワインと、それぞれの記憶

ここで、これまでの4杯を振り返ってみましょう。

  • 第1杯目:ナパ・シャルドネ
     明るさと厚みのある果実味、しっかりした樽のニュアンス。まさに“旅の始まり”にふさわしい力強い白。
  • 第2杯目:スペイン・オレンジワイン
     白ワインの概念をくつがえす、赤ワインのような構造をもつ個性派。ストーリー性が強く、文化的背景を感じた一杯。
  • 第3杯目:南ア・ピノ・ノワール
     冷涼な海風とテロワールが映し出された繊細な赤。“伝統と革新の交差点”という南アの一面を垣間見せてくれました。
  • 第4杯目:長野メルロー
     日本のワインが見せてくれた“調和と品格”。深みと静けさが同居する味わいに、日本ワインの今と未来を重ねました。

そして今回のロゼは──
それらの旅路の余韻をやさしくまとめ、飲み手をやわらかく送り出してくれるような、締めのグラスでした。

酒屋としての、ひとつの実感

このロゼを飲んで感じたのは、「ワインの本質的な楽しみとは、結局こういうことかもしれない」ということでした。

たとえば、樽香の効いたシャルドネも、構造のある赤ワインも、ワイン愛好家としてはたまらない体験です。
でも、**日常の中でふと飲みたくなるのは、こういうロゼのような“軽やかで懐の深いワイン”**なのかもしれません。

酒屋という立場で、たくさんの方と話していると、
「難しいことはわからないけど、美味しい一本を探してる」
そんな声をたくさん聞きます。

このロゼは、まさにその声に応えるようなワインでした。
背景にあるのは自然農法や南仏文化、受賞歴──
でも、そうした情報より先に、「飲んで美味しい」が伝わることがなにより大事なんだと、改めて感じさせてくれました。

最終話として、この旅の“意味”を考える

「ワインで巡る世界の旅」は、単なるテイスティングイベントではなく、
土地、文化、人、造り手、そして飲み手をつなぐ物語のようなプログラムでした。

それぞれのワインには背景があり、物語がある。
私たちがグラスを傾けるたび、その背景に触れ、どこか遠くの土地とつながる──
そんな感覚を、このイベントは丁寧に演出してくれました。

そして最終話となる今回。
“締め”に選ばれたのが、誰にとっても親しみやすく、でも深みのあるロゼだったことに、個人的には大きな意味を感じています。

旅は派手な出発でもなく、劇的なクライマックスでもなく、
自然体で終わるからこそ、次もまた旅に出たいと思える──
そう思わせてくれるようなグラスでした。

そして、次の一杯へ

こうして「ワインで巡る世界の旅」はひと区切りを迎えました。
でも、ワインとの出会いは終わりません。

この体験を経て、改めて思うのは──

「いいワインって、特別な日だけのものじゃなくて、日々のどこかでそっと心を潤してくれる存在」だということ。

派手じゃなくていい。高価じゃなくていい。
けれど、誰かの記憶に残るような一本を、これからも届けていけたらと思います。

次のグラスに、どんな物語が待っているのか。

酒屋として、そして一人のワイン好きとして。

この旅を、続けていきます。

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 茨城県ひたちなか市で1910年(明治43年)の創業以来、110年以上の歴史を刻む老舗酒店です。
 「甲斐武田氏」ゆかりの地としての歴史・文化の継承にも力を入れ、地域の活性化に取り組んでいます。お酒のことも、ひたちなか市のことも、お気軽にご相談ください。

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