先日、社員でハリーポッターのスタジオツアー東京(旧としまえん跡地)へ行ってきました。

映画の世界観が本気で作り込まれていて、気づけば「観光」ではなく「没入」していたような感覚。
そんな中で印象に残ったのが、あの有名なハリーポッターといえばの飲み物でした。
それは…バタービール!
泡はふわふわでほんのりバター風味。
下の液体は甘くて、アップルサイダーのような味。
見た目は完全にビール。でも飲んだら“甘いジュース”。
ノンアルコールだからこそ、誰でも楽しめる。
けれど、飲みながらふと頭をよぎりました。
これ、なんで“ビール”って呼ぶんだろう?
バターもビールも入ってないのに、あえてこの名前をつけた理由。
調べてみると、あの一杯には意外なビールとつながる背景がありました。
見た目が“ビールっぽい”から。それだけじゃなかった
もちろん、名前の由来として一番わかりやすいのは「見た目」です。

泡がのったグラスに黄金色の液体。あれはどう見てもビールのような雰囲気を出していました。
でも、ハリーポッターの原作・映画の中で「バタービール」と呼ばれていたから、それを再現しただけ…という説明では、ちょっと物足りなさが残ります。
むしろ気になったのは、なぜ“原作の中で”バタービールという名前を使ったのか?という点です。
実は16世紀、バター入りのビールがあった

調べてみると、「バタービール」という言葉そのものはフィクションですが、似たような飲み物は実在していました。
16世紀のイングランドには、Buttered Beer(バタード・ビール)という温かい飲み物があったそうです。
レシピにはビール、バター、砂糖、卵黄、そしてスパイス類(ナツメグやクローブなど)。
加熱して、風邪のときや寒い時期に飲まれていた家庭のレメディ(家庭療法)的な位置づけでした。
もちろんアルコールは含まれていましたが、子どもにも出していた記録もあるくらい、当時は“栄養価のある飲み物”だったんですね。
つまり、「バター入りのビール」はファンタジーから生まれたアイデアでもあり、歴史の中にすでに存在していたのです。
科学的にも、“バターっぽいビール”は実在する
もうひとつ面白いのが、現代のビールにも「バターの香り」が出ることがあるという点。
その正体は「ジアセチル(diacetyl)」という成分です。
ジアセチルとは
ビールの発酵過程で自然に発生する化合物で、発酵の過程で還元されて発酵が進むにつれてなくなっていく物質です。
これは、バターに似た香りを持っています。
ごく微量なら「コク」や「まろやかさ」として歓迎されることもありますが、多すぎると「不快なバター臭」としてマイナス評価になる繊細な存在です。
私たちが飲んだバタービール(ノンアルコール)にはこの成分は含まれていませんが、 “バターの香りがあるビール”というのは、現実のビールの世界でもちゃんと語れる風味なんです。
ファンタジーの一杯が、現実の「お酒」の世界に繋がっていた
ただのジュースでしょ?
実際、そうかもしれません。
アルコールもないし、醸造もしていない。ビールとは別物です。
でも、そこから「じゃあ、なんでこう呼ぶんだろう?」と考えて、調べて、見えてきたのは、フィクションと現実が地続きになっているような、ちょっと不思議な感覚でした。
- かつてあった実在のレシピ
- 発酵の副産物として生まれる風味
- そして、見た目の演出と名前づけの妙
飲み物って、ただの液体じゃない!
その背景に何があるのかを知ることで、味わい方が変わるものなんだと実感しました。
「知ると味わいが変わる」飲み物は面白い
今回、バタービールという“ジュース”から出発した疑問は、私たちにとって単なる雑学ではなく、ビールという世界について多くの学びを得ることができました。
私たちは酒屋として日々、ビールやウイスキー、日本酒、焼酎などを扱っています。
けれど、お客様が「これは何?」「なんでこんな名前なの?」と思う瞬間こそが、そのお酒に対して興味を持ち、深く味わっていく第一歩になると考えています。
「この一杯にはどんな背景があるのか」
それを知ることで、味は変わらなくても、その体験の深さは変わる。
今回のバタービール体験は、フィクションをきっかけに現実の飲み物の奥深さを再確認する機会でした。

酒屋として、こうした背景を丁寧に伝えることも、私たちの役割の一つだと思っています。