東京ディズニーシーで開催されたワインプログラムのテーマは、“ワインで巡る世界の旅”。
そのスタート地点が「アメリカ」だったことに、私はある種の必然を感じました。
会場は、アメリカンウォーターフロントに停泊する豪華客船「S.S.コロンビア号」。

この港町の舞台は1912年。移民たちが夢を抱き上陸し、繁栄と混沌が交錯していた時代です。
そして、その船内にある「テディ・ルーズヴェルト・ラウンジ」。
名前の由来は、熊を逃がした逸話で“テディベア”の語源にもなった、アメリカ第26代大統領 セオドア・ルーズヴェルト。
彼は正義を掲げ、当時の腐敗政治に立ち向かい、警察改革や自然保護、反トラスト法によって“アメリカらしさ”の礎を築いた人物でした。
ラウンジに飾られた、熊と虎が向かい合う木彫。
それは、正義と権力の対立、“理想を貫こうとした者”の物語を静かに語りかけてきます。
そして──そんな場所で最初に供されたのが、アメリカ・カリフォルニアのワイン。
それも、ナパ・バレーで挑戦を続ける造り手、ダックホーンが手がけた1本でした。
カリフォルニアは、ルーズヴェルトが信じた“新しいアメリカ”の象徴ともいえる土地。
陽光と大地に恵まれ、果実味が豊かで、芯の通った味わいを持つカリフォルニアワインには、
どこかテディにも通じる「まっすぐさ」と「開拓者の精神」が宿っているように思えたのです。
Duckhorn Vineyardsとは?――シャルドネにも実力を持つ、ナパの名門
今回セミナーで登場した「Duckhorn Chardonnay 2023」は、
アメリカ・カリフォルニア州ナパ・バレーを代表するワイナリー、ダックホーン・ヴィンヤーズによる1本です。

ダックホーンは1976年、ダン&マーガレット・ダックホーン夫妻によって創業。
メルローという、当時はあまり注目されていなかった品種にあえて光を当て、
“脇役を主役に押し上げた造り手”として名を広めました。
しかし、その実力はメルローにとどまらず、
カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネといったナパを代表する品種でも、常に高い評価を得ています。
特にシャルドネにおいては、果実味のふくらみと、オーク由来のやさしい甘みのバランスを得意とし、ナパの温暖な気候と組み合わさることで、“親しみやすさの中に高級感がある”味わいに仕上がります。
まさに今回の「Duckhorn Chardonnay 2023」は、その典型でした。
香りは、トロピカルフルーツのような華やかさが前面にあり、奥にほんのりとしたジンジャーのスパイス感が感じられました。
グラスの中で時間をかけて空気を含ませることで、柑橘系の酸味の中に、バターやクリームのようなまろやかさが顔をのぞかせるような印象に変化していきました。
“わかりやすさ”と“奥行き”、
まさにその両方を兼ね備えた、カリフォルニアらしいシャルドネの1杯でした。
シャルドネとは?――“味が変わる白ブドウ”、その奥深さ

白ワインの世界で、最も名前を聞く機会が多いブドウといえば「シャルドネ」かもしれません。
それもそのはず。
フランス・ブルゴーニュ地方原産のこの白ブドウは、今や世界中で栽培されており、まさに“白ワイン界の王道”。
シャルドネそのものは、比較的クセの少ない“素直なブドウ”。
だからこそ、造り手の個性や、熟成に使う樽の影響がダイレクトに表れやすいのです。
たとえば——
- 冷涼地(例:フランス・シャブリ)では、
青リンゴやレモンのようなすっきりとした酸味、キリッとしたミネラル感が際立ちます。 - 温暖地(例:アメリカ・ナパバレー)では、
トロピカルフルーツの熟れた香りに、オーク樽由来のバニラやバターのようなまろやかさが重なります。
まさに今回セミナーで味わった「Duckhorn Chardonnay 2023」はこの“温暖地スタイル”。
熟した果実のふくよかさに、クリーミーな質感が重なり、口当たりのやわらかさが印象的でした。
アメリカワインに使われる白ブドウには、ソーヴィニヨン・ブランやピノ・グリなどもありますが、シャルドネは“表現の幅”がとても広い品種として知られています。
どんなスタイルを選ぶかによって、印象がガラリと変わるのが、この品種の面白さなのかもしれません。
思い出した3つのナパワイン。それぞれに違う「らしさ」
そんな Duckhorn Chardonnay を味わいながら、思い出したワインがいくつかあります。
まずは「Silverado Vineyards Fantasia」
以前、ファンタジースプリングスホテルの「ラ・リベリュール」でいただいたことがありました。
グラスに注いだ直後は穏やかでしたが、空気に触れるたびに果実味がふくらみ、重みが深みに変化していくような印象を受けました。
まさに“Fantasia”という名前のとおり、どこか幻想的で夢のような余韻を感じられるワインでした。
また、同じ時期に「689 Red」や「Woodbridge Cabernet Sauvignon」も飲みました。
689は、ナパ・ソノマ・モントレーのブドウをブレンドした赤ワインで、スパイシーさとまろやかさのバランスが印象的でした。
タンニンは控えめで、余韻にはほんのりとした甘みも感じられたように思います。
一方の Woodbridge は、ロバート・モンダヴィによるカジュアルラインのワインで、トースト感のあるベリーや焼いたマシュマロ、チョコレート、クラッカーのような香ばしさが特徴的でした。
最後には、焦がしキャラメルのような甘苦い余韻が口に残ったのが印象的でした。
こうしていろいろと飲み比べてみると、同じカリフォルニア、同じ赤ワインであっても、使われているブドウの品種や、樽熟成の方法、そして造り手のスタイルによって、ずいぶんと違いが出るのだと実感しました。
そう考えると、
「赤ワインでこれだけ違いが出るなら、白ワインでも同じような違いがあるのではないか」
と、自然と思えてきます。
たとえばシャルドネのように、クセの少ない品種であっても、
育った地域や気候、樽を使うかどうかといった要素によって、
香りや味わいの印象が変わってくるものなのだろうと思います。
今回の Duckhorn Chardonnay は、そうした違いを感じるきっかけにもなった1本でした。
ラベルの意味を読む楽しみ

Duckhorn Chardonnay 2023。
この名前ひとつ取っても、実はたくさんの情報が詰まっています。
- Duckhorn:造り手の名前(ワイナリー)
- Chardonnay:使用しているブドウ品種
- 2023:収穫年(ヴィンテージ)
ワインのラベルは、“その1本の履歴書”。
名前を読むだけで、「どこで・誰が・どんなブドウで」造ったのかが見えてきます。
味だけでなく、そこに込められた背景まで味わうことが、ワインをもっと楽しくしてくれるのだと改めて感じました。
※今回ご紹介した「Duckhorn Chardonnay 2023」は、東京ディズニーシー「S.S.コロンビア・ダイニングルーム」にて、グラスワインとして提供されています(2025年5月現在)。
豪華客船「S.S.コロンビア号」の中で、アメリカンウォーターフロントの物語とともに味わえる1杯。気になる方は、ぜひ現地でチェックしてみてください。
次回予告:白ブドウで赤ワイン?
白ワインに使われる“シャルドネ”を味わったあとの旅先は、スペイン。
そこで出会ったのは、「白ブドウで赤ワインのように仕込まれた」不思議な1杯、オレンジワインです。

次回は、その味と造りの“逆転発想”に迫ります。