「ちょっと変わった名前の焼酎があります。名前は、“蟻”。」
最初は、焼酎らしくないなと思ったけれど、ラベルの裏に書かれた想いを読んだ瞬間に、気持ちが変わりました。
鹿児島県・大隅半島。この地で“蟻”という名前の焼酎を造っているのが、神川酒造という小さな蔵です。
派手さはないけれど、一歩一歩を着実に進み、
やがて道をつくっていく「蟻」のように、
神川酒造は地道で丁寧な焼酎造りを積み重ねてきた蔵なんです。
手間を惜しまず、目の届く範囲で、心のこもった焼酎を届ける。
そんな焼酎が今の時代にあること自体が、ひとつの希望だと感じました。
人に、自然に、優しい焼酎を
神川酒造は1963年、肝属郡大根占町(現在の錦江町)の神ノ川沿いに創業しました。
1990年には鹿屋市永野田町へ移転し、現在に至ります。
創業以来一貫して守り続けているのは、
「人にやさしく、自然にやさしい焼酎造り」という基本姿勢です。
焼酎造りの原点は、自然の恵みと、それを育む人々への感謝。
原料には、地元・大隅半島で育まれた新鮮な黄金千貫を中心に、
品質を確かめながら選ばれた米や大麦を使用しています。
仕込み水には、高隈山系の伏流水が使われています。
神川酒造が選ぶ素材は、単なる「新鮮」さだけでなく、
焼酎になったときに最もその個性が引き立つことを見据えたものです。
原料選びから仕込みに至るまで、
すべての工程で人の目と手による丁寧な作業を重ねています。
▶︎ 神川酒造公式サイト
機械やオートメーションに頼るのではなく、
素材の状態や発酵の進み具合を、日々丹念に観察・管理しながら仕込んでいく。
神川酒造の焼酎は、こうした積み重ねによって生まれています。
「蟻」という名前に込められた想い
神川酒造が手がけるブランド──それが「蟻」です。
小さな体で黙々と前に進む蟻の姿に、自らの焼酎造りを重ねたのだといいます。
「小さい、大きいは、個性だ」
「どれだけ歩いたかではない。今日も歩き続けることに価値がある」
「効率」よりも「誠実さ」を大切にし、
仕込みごとに妥協のない姿勢で焼酎造りをされていると感じました。
少人数の蔵だからこそ、できる範囲を見極め、その中で“いちばん良いもの”を目指す。
そうして生まれる焼酎に、「蟻」という名前はよく合っています。
手間をかけることが品質をつくる
神川酒造では、今も変わらず手仕込み・少仕込みが徹底されています。
たとえば麹づくりでは、温度や湿度の管理を手作業で行い、
蔵人たちが麹の成長を五感で確かめながら仕上げていきます。
発酵のもろみも日々の状態変化を見ながら丁寧に攪拌する。
蒸留は、素材の風味をやわらかく引き出すために独自の蒸気蒸留を採用しています。
大量生産に比べれば、非効率で、手間も時間もかかる方法です。
しかしその積み重ねこそが、素材の持ち味を素直に活かした、滋味深い味わいを支えています。
誰にも見えないところで、今日も手を動かし、目を配り、
焼酎にとって「ちょうどいい瞬間」を逃さない。
その地道な仕事の積み重ねが、「蟻」という一本に表れています。
日常にそっと馴染む存在
「蟻」は、特別なイベントや祝い事のための焼酎ではありません。
むしろ、日々の暮らしの中に自然と溶け込むような、“寄り添う一杯”としてつくられています。
ストレートで香りを感じたり、水割りで甘みを広げたり、
お湯割りで体の芯から癒されたり──。
その日の気分に合わせて、いろいろな飲み方ができるのも、この焼酎の魅力です。
料理との相性もよく、家庭の和食や素材を活かした洋食ともよく合います。
肩肘張らず、構えずに飲める、けれど、確かにおいしい。
それが、「蟻」の目指すスタイルなのだと感じます。
一歩ずつでも、確かな歩み
「蟻」の話を初めて知ったとき、焼酎造りに込められた想いや、日々の仕込みに向き合う姿勢に心を打たれました。
そこから、「蟻」という名前の意味が、自分の中でより深く響くようになった気がします。
有名ブランドのような派手さや宣伝力がなくても、
毎日を丁寧に積み重ねていくことの強さ。
派手に見せることよりも、ほんとうに“いいもの”を届けるという信念。
HPや資料を読み進める中でも、その姿勢は変わらず一貫しています。
丁寧に造られた焼酎が、こうして私たちの食卓に届くこと。
その背景にある努力や誇りを想うと、
ただの一杯ではない価値が、この焼酎にはあると感じさせられます。